『3月のライオン』感想~痛みと弱さを抱えて生きる少年の、闘いと再生の物語


今回は、『3月のライオン』のご紹介。
羽海野チカ先生の前作、『ハチミツとクローバー』も好きで、どちらも全巻持っています。

『3月のライオン』は、アニメも現在放送されていますし、神木隆之介主演の映画も準備中ということで。
とても勢いのある人気作品です。

あらすじを、ものすごくざっくり説明すると。

心に傷を負ったプロ棋士、桐山零(高校生)は、川本家の三姉妹(あかり・ひなた・もも)と出会う。将棋に真剣に向き合い、戦い、様々な試練を乗り越えながら、零は自分を取り戻していく、というお話。

(すごくざっくりしてる!!!)

行き場の無い「痛み」と「弱さ」を抱えて

主人公の零は、実の父母妹を交通事故で無くし、父の友人の家に引き取られたものの、新しい家に馴染めず、高校生ながら一人暮らしをしています。
そして、川本家の三姉妹も、不幸な家族環境を抱えながら生きる日々。

たまたま出会った零と川本家の三姉妹は、同じ「痛み」を抱えながら、寄り添うように、まるで家族のような温度で、交流を深めていきます。

設定は重たいです。特に最初の方は主人公がとにかく暗いので、その空気感が読んでいて辛いかもしれません。

川本家の三姉妹が、努めて明るく振舞おうとしているのが救いかな。

羽海野チカ先生の漫画の特徴は、モノローグが非常に多いこと。
作品中には主人公のモノローグが大量に溢れているのですが、その文章が、一文字一文字がヒリヒリと痛い。
半分、小説を読んでいるかのような感覚です。

また、人の心の「弱さ」も容赦なく浮き彫りにされています。

物語の視点は主人公だけでなく、時には他の人物に視点が移るのですが。

それぞれの抱えている悩みであったり、怒りであったり。
そういうものが全力で描かれているんですよね。

脳に直接メッセージを語りかけてくるような、勢いのある台詞・モノローグが続きます。

「痛み」を癒し、「弱さ」を強さに変える闘い

この作品が支持されているのは、何故かというと。
人の「痛み」と「弱さ」を容赦なく描いた上で、その「痛み」に足掻き、「弱さ」にもがき苦しみ、そして浮上しようと這い上がる。
その過程を絵と文章で見事に表現しているからでしょう。

きっと、羽海野先生の絵と文章表現が、上手過ぎるのだと思います。
あまりに情緒に訴える表現が続くので、読み手によっては気持ちが入り込み過ぎて、苦しくなるかも。

零は将棋の世界という厳しい場所で闘い、少しずつ人と交流して世界を広げ、どんどん表情を変えていきます。

『3月のライオン』に出てくる人たちと全く同じ境遇にある人は少ないかもしれない。
ただ、細かい状況は違っていても、登場人物と近い「痛み」や「弱さ」を感じることは、あると思うんです。「ああ、何となくわかるわー……」と。

だからこそ、逃れようのない「痛み」を癒し、「弱さ」を強さに変えようとあがく零の姿に、私たちは心を動かされてしまうのではないかと。

勇気をもらってしまうのではないかと。

闘う勇気が欲しい、そんな時に。

『3月のライオン』は、序盤も面白いのですが、特に6巻からが良いです。
すごく熱い。めっちゃ熱い。

6巻を読み終えたとき、「この漫画を読めて良かった……!」と充足感で満たされたことを、今でも覚えています。

NHKで放送されているアニメもかなりクオリティが高いですし、二部作連続公開の映画の方も楽しみ。

って、今映画の予告編を見たのですが、一度見ただけで、ガッツリ心掴まれてしまった……。
ナニコレ早く観たい。もう一度漫画を読み直そう、そうしよう。

気持ちがポキッと折れてしまいそうな時に、闘う勇気をもらえる漫画です。